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高松高等裁判所 昭和47年(う)336号 判決

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役六月に処する。

押収してある大型回転式けん銃一丁(当裁判所昭和四七年押第一四五号の一)、同けん銃用実包二発(同号の二)、小型中折式けん銃一丁(同号の三)、同けん銃用実包一発(同号の四)、小型中折式けん銃一丁(同号の五)、同けん銃用実包一発(同号の六の一)、同空包二発(同号の六の二)を没収する。

理由

本件控訴の趣意は、記録に綴つてある弁護人宮部金尚作成名義の控訴趣意書に記載のとおりであり、これに対する答弁は、高松高等検察庁検察官検事北守作成名義の答弁書に記載のとおりであるから、ここにこれらを引用する。

まず、職権をもつて調査するに、原裁判所は、昭和四七年一一月七日付の「更正決定」と題する書面で、原判決に明白な誤謬があつたとして、原判決の『事実欄第一の「昭和四七年一月二八日ころ」とあるのを「昭和四七年三月三〇日」と更正する。』旨の決定をしていることが記録上明らかである。

そこで、刑事訴訟手続において、判決の更正決定が許されるかどうかについて検討する。元来、刑事訴訟手続においては、民事訴訟法(一九四条)が認めているような判決の更正決定を許す明文の規定は存在しない。思うに、判決書に誤記、脱字があるときは、裁判所の真意とその表示とが一致しない場合であるが、判決文の前後の記載や判決書全体の趣旨あるいは訴訟記録ないしは各証拠に照らして、誤記もしくは脱字があることがきわめて明白で、しかも判決裁判所の意図した真意を誤りなく把握できる場合があり、このような場合には、判決の趣旨内容は、その正しいところに従つて理解されるべきはいうまでもなく、右のような場合には、判決書の誤記ないし脱字の瑕疵は判決に影響をおよぼさないというべきである。そして、判決の更正決定が許されるかどうかは、口頭主義、公開主義、法廷中心主義を強調する刑事裁判の基調からは一応問題であるが、しかし、右の立場を害せず、訴訟当事者の権利を害しない限りにおいては判決書の形式的正確性を保持するために、いつでも判決の更正をなしうるものと解すべきであつて、その限度は前記説示の程度にとどめるべきである。もつとも、更正の限度を右の程度にとどめるとすれば、更正決定は許されないと解するも同一に帰するのではないかとの議論も生ずる余地があるが、しかし、判決書の誤記もしくは脱字の有無、右誤記もしくは脱字が明白なものであるか否かの点、ならびに、右誤謬の更正が当事者の権利を害するか否かは訴訟記録および各証拠を調査したうえで始めて判明することであるから、判決書の閲読者をして誤解させないため、判決裁判所による判決の更正決定を認め、判決書と更正決定とを一体として、判決書の形式的正確性を保つことは必ずしも無益なことではないというべきである。

そして、本件についてこれをみるに、記録によれば、原判示第一の事実についての公訴事実(起訴状記載の公訴事実)の要旨は、「被告人は、昭和四七年一月二八日ころ、松山市吉藤町四二九番地の一所在の堀内哲義方において、改造けん銃二丁および実包三発を所持していた」というものであつたところ、原審第二回公判において、検察官から、右訴因のうち「昭和四七年一月二八日ころ」とあるのを「昭和四七年三月三〇日堀内哲義と共謀のうえ」と、「堀内哲義方」とあるのを「右堀内哲義方」とそれぞれ変更する旨訴因変更の請求がなされ、原裁判所は、同期日に右請求どおりの訴因変更の許可決定をしたうえ、判決書において変更された訴因どおり共謀関係を認定判示していることが明らかであるから、原判決が判示第一の犯行年月日を「昭和四七年一月二八日ころ」と判示したのは明白な誤記というべきである。しかしながら、さらに、記録によると、被告人は、昭和四七年一月二九日松山地方裁判所で住居侵入罪により懲役三月に処せられ、この裁判は同年二月一三日確定しているのであり、原判示第二の各罪は右確定裁判後の犯行であるから、原判示第一の各犯行が右確定裁判前の「昭和四七年一月二八日ころ」であるか、それとも確定裁判後の「昭和四七年三月三〇日」であるかは、その認定のいかんによつて判決主文で一個の刑を言渡すかそれとも二個の刑を言渡すかという判決主文に直接影響を及ぼす重要な事項であるから、これを更正決定によつて更正することは許されないというべきである。したがつて、前記更正決定は無効であつて、なんらの効力も生じないといわざるをえない。そして、前記説示の事実関係に徴すると、原裁判所は、原判示第一の犯行年月日についての訴因が「昭和四七年三月三〇日」であつたのに対し、なんら訴因変更の手続を経ることなく、これを「昭和四七年一月二八日ころ」と判示したのであるから、原判決には訴訟手続の法令違反があり、しかも右訴訟手続の法令違反は前記のとおり判決に影響をおよぼすことが明らかである。したがつて、原判決は、弁護人の量刑不当の論旨について判断するまでもなく、破棄を免れない。

よつて、刑訴法三九二条二項、三九七条一項、三七九条により原判決を破棄し、同法四〇〇条但書により、当裁判所において直ちに判決する。

(罪となるべき事実)

第一  被告人は、法定の除外事由がないのに、堀内哲義と共謀のうえ、昭和四七年三月三〇日、松山市吉藤町四二九番地の一所在の同人方において、改造けん銃二丁〔大型回転式けん銃一丁(当裁判所昭和四七年押第一四五号の一)、小型中折式けん銃(デリンジャー型)一丁(同号の三)〕および火薬類加工品である実包三発(同号の二、四)を所持していたものである。

第二  原判示第二の事実記載のとおりである。

(証拠の標目)〈略〉

(累犯前科)〈略〉

(法令の適用)

被告人の判示第一の所為および原判決の認定した第二の所為中、けん銃所持の点は銃砲刀剣類所持等取締法三一条の二の一号、三条一項に、実包および空包所持の点は火薬類取締法五九条二号、二一条にそれぞれ該当する(判示第一の各所為についてはさらに刑法六〇条を適用)ところ、右けん銃および実包、空包の各所持罪は一個の行為にして数個の罪名に触れる場合であるから、それぞれ刑法五四条一項前段、一〇条により重い右銃砲刀剣類所持等取締法違反の罪の刑で処断することとし、所定刑中いずれも懲役刑を選択し、被告人には前記の前科があるので刑法五六条一項、五七条により再犯の加重をし、以上は同法四五条前段の併合罪なので、同法四七条本文、一〇条により犯情が重いと認められる判示第一の罪の刑に法定の加重をした刑期範囲内で被告人を懲役六月に処し、押収にかかる大型回転式けん銃一丁(当裁判所昭和四七年押第一四五号の一)、同けん銃用実包二発(同号の二)、小型中折式けん銃一丁(同号の三)、同けん銃用実包一発(同号の四)は判示第一の、小型中折式けん銃一丁(同号の五)、同実包一発(同号の六の一)、同空包二発(同号の六の二)は判示第二の各犯罪行為を組成した物で、犯人以外の者に属しないから、同法一九条一項一号二項によりこれらを没収することとし、主文のとおり判決する。

(木原繁季 深田源次 山口茂一)

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